品質管理業務は数も質も高まっていくのではないかと思う。
この動向は、AIがある種のタスクを代替する一方で、人間だからこそ担える、あるいは、人間が担うことで新たな価値が生まれる領域というのが少しずつ顕在化してきている一端かもしれないと捉えている。
最近の仮説(妄想)として、これからのホワイトカラーの重要な役割の一つは、知識や情報を原材料とした成果物の「品質管理」になっていくのではないかと思い出している。
もう少し具体的に言うと、AIが生成する情報の洪水の中で、何が正しく、何が信頼でき、何を使うべきかを判断し、その品質を維持・向上させるということである。
AIは大量かつ効率的に情報を集め、整理し、成果物を生成する。
これは本当に便利だし、その質も(チューニングの妙を含め)どんどん向上していくだろう。パーソナライズ等も完璧にこなしてくれる。既に現時点でも、私のような並の人間が出すよりも遥かに良い成果物を生成する。
その裏側で、AIによるフィルタリングやパーソナライズもどんどん進むと想像している。また、人々の多くはそのフィルタリングやパーソナライズを違和感なく受け入れるだろうし、そういったことに疑問等を持つこともないのではないかと想像する。
そうなると、私たちは、自分が関心のある情報や自分の考えに近い情報ばかりに触れることになりやすくなる。
AIが高度化し、社会や生活に浸透すればするほど、この「エコーチェンバー」現象は強化されていくだろうと考える。これまでに巷で言われ続けてきたSNSなんてものではない、次元の違う水準で、自分にとって心地よい情報ばかりに囲まれ、異なる意見や視点に触れる機会が減るだろう。
このエコーチェンバーの中に閉じこもってしまうと、社会やビジネスの全体像を見誤ったり、リスクに気づけなくなったりするだろう。
結果、「それっぽい判断/決断」はより簡単にできるようになっていく一方、偏った判断/決断による命取りが生まれるケースが今よりも多くなるのではないかと妄想している。
品質管理が重要になる、といっても、そこで必要とされる能力は、付け焼刃では通用しない。「実務技能・実務能力・実務経験」が必要不可欠な領域だと思うからだ。
難しいなぁと思うのが、AIが様々な知識労働を代替するようになると、かつてはそうした実務を通じてスキルや経験を積めたはずの機会が減ってしまう。肝心の実務技能・実務能力・実務経験をどうやって獲得するんだ?という問題が出てくると思っている。
オンライン講座などで知識は学ぶことができる。生成AIに聞けばそれなりの答えも返ってくる。しかし、現場で実際に手を動かし、頭を悩ませ、失敗から学び、体で覚えるような「実務力」は、座学やAIからの回答だけではなかなか身につかないと私は思う。
では、どうすればいいかというと、私はハイブリッドなアプローチが必要なのかなと考えている。
前述のとおり、AIは(もちろん使い方によるが)極めて優秀だ。これを使わない手はない。AIを相棒のように使い、量と速さを最大限に出すこと(あるいは、そういったことが成果とされる物事に)はもはやベースとなるだろう。
一方で、それと並行して、あるいはそれを補完する形で、「自分自身の頭と体を使って回答を出すこと」も意識的にやっていく必要があるのではないか。
これからのホワイトカラーは、単に知識を持っているだけでなく、AIを使いこなしながらも、そのアウトプットの「品質」を保証し、エコーチェンバーに陥ることなく、多角的な視点を持って、責任ある判断を下せるかどうかが問われる時代になると思っている。
責任感と信用力がこれまで以上に力となるのかもしれないね。